星になった男たち
こう見えて僕は歩くのが速い。いつもダラダラしているし、トロそうに思われがちな僕なので、初めて歩いている姿を見た人からはいつも驚かれる。大体みんな「仕事は遅いのに歩くのだけは速いね」と言ってくる。「ドアホ!仕事も早いわ!」と言い返したいところだが、僕は普通に仕事が遅いし、普通に5時間くらいかかる。でも歩くスピードだけは本当に自信がある。速すぎて街中で僕を見かけた競歩の選手たちがコースを間違えてついてきたほどのスピードだ。しかもそのままゴールして金メダル獲得。もらったメダルはもちろんかじった。
世間を騒がせた川村市長のメダルかじり事件。メダルは普通に"おいしい"ので気持ちはわからんでもない。
なぜこんなに歩くのが速いのか?僕の歩くスピードは中学時代の登下校で培ったものだ。僕の中学校は山の上に建てられており、登下校の道中には急勾配の坂がいくつも待ち受ける。急すぎてもう90度の壁だ。つまり毎日がSASUKE(Every Day SASUKE)。そんな登下校を繰り返せば自然と歩くスピードも速くなっていく。初めの頃は登校するのに40分弱かかっていたのに卒業する頃には30分程度に縮まっていたほど足が速くなった。
そのおかげで今も歩くのが速い俺は街に繰り出すとスピードスターだ。都会を歩くシティボーイ、シティガール達をどんどん追い抜いていく。僕はボーイ達を抜くたびに「フッ…。その程度か。お先ィ!」と心の中であざ笑う。「シティ?男は黙って…山!」という感じだ。だがそんな僕を追い抜いていく光のような存在が稀にいる。あの人たちはなんだ?流石に速すぎやしないか?速すぎてそのままタイムスリップするんちゃうかと思ってまうわ。「もう走れよ」とアドバイスしたくなる。
だけど、こっちだってスピードスターの称号をほしいままにした男だ。負けてられないと少し無理をしてスピードを上げる。そして大体、こういうタイプの人間は張り合ってくるので、お互いが猛スピードで並走する形になる。そうしてデッドヒートを繰り広げていくと1人、2人と張り合う人間が増えてくる。いつの間にか早歩き集団と化した僕たちを見て人々は「あっ...。流星群」と呟いたそうだ。そう僕たち1人1人がスピードスターだったのだ。